癒しの選び方(2−3) BRM療法 改善したいという治療者の思いは、必ず患者に伝わります

患者にとって良い治療家とはどんな存在?
――これまで、さまざまなケガや病気、不調にBRM療法で改善できることをお話いただきましたが、適応外になる症状はありますか?
吉田 禁忌ということですね。BRMは非常に多くの症状に対応できますが、施術を控えるケースもあります。たとえば、患者さんに脳内出血があって、それが進行しているのに気づいていない場合があります。そういうときはやらないようにしています。特に二次性頭痛は出血などがあるかもしれないので、注意します。それから、骨密度の状態は非常に気をつけていますね。
――たとえばお年寄りに施術する場合などでしょうか。
吉田 はい。これ以上優しく触れる療法はないと思いますけど、それでも骨密度が低い人は、施術のときは細心の注意が必要です。
(取材日当日、オランダ在住の助産師・坪田育子さんもインタビューに参加。
数年前、BRM療法に魅せられて、以後、何度も日本に帰っては、吉田さんのセミナーを受講。
オランダでもBRM療法を広めたいとのこと)
――それから今日、初めて先生の治療院に伺って、扉を開いた瞬間に先生の顔を見て、とてもほっとしました。優しい笑顔で迎えてくださって。当たり前のことかもしれないのですが、治療を選ぶ上では禁忌と共に、治療者の人柄もクライアントさんにとっては大切ですよね。
吉田 そうですね。ただ、これは言葉では伝えられることではないですね。「いかに患者さんに寄り添えるか」というのは。
たとえば、接するのに難しい子が来ることがあります。多動性障害のお子さんが初めてここに来たとしましょう。そういった子どもは“多動”なので、院内をかけまわっていて、なかなか治療が始められない。しかし、だからといって、その子をつかまえて早く施術しようと思っても絶対にできません。
治療家として大事なのは、「治療家は、患者さんの観察の眼にかなわないといけない」ということです。多動性障害のその子は走り回りながら、実は私をずっと観察している。その子の眼にかなわないと、絶対に受け入れてもらえません。目に見えない、治療家とクライアントとのやりとりのようなものはあると思います。
――それは、いわゆる健常の方であっても同じことで。
吉田 ええ、受け入れてはくれないですね。ですから治療家は、「とにかく治してやろう」とするのではなくて、「身体がどんな状態か知りたいんだ、だからちょっと教えてほしい」というところから入ります。
――患者は、どんな風に治療家の先生を選ぶと良いと思いますか?
吉田 私がこういうことを言っていいのかわかりませんけれど。ただ、本当に自信のある治療家というのは、相手に対して威圧感がないと思います。良い治療家であれば、患者さんが治療院に来て、診察で座るまでの間に、すべてを観察できていますから。「この人のどのあたりが悪いのだろう」とか、「来た時に『頭痛です』って言ったけど、たぶん、ここに原因があるんじゃないか」と、良い意味でちゃんと見ることができていて、ものすごくさりげなく相手を迎えられる。だから患者さんはとてもゆったりした気分になれるんです。
――なるほど、余裕があるのですね。患者の立場からしたら、そういう先生を選びたいと、たしかに思います。
吉田 開業した直後に、非常に重症な患者さんがやってきたことがあります。その患者さんは当時の私と同じような症状を持っていたので、「この人の症状は自分と似ているから、こんな感じでやってみたらいいんじゃないか」と思いながら、見よう見まねで施術をしました。BRM療法を創り出すずっと前なので、その施術でもちろん完璧なものではありませんでした。でもその患者さんは、技術の問題よりも「気持ちの問題」として、とてもホッとして救われた、という思いがあったそうです。
――先生が患者さんの症状を「自分ごと」として捉えて、一生懸命施術してくれたのが伝わったんでしょうね。そういう気持ちはとてもわかります。
吉田 この患者さんはそれをきっかけに、いろんな人を紹介してくれるようになりました。当時の私はまだ何もできなかったのに。
――相手に対する誠実な思いは必ず伝わるというのは、どんな仕事にも通じることですね。初心を忘れてはいけないと、改めて感じました。ちなみに、吉田先生がBRMを開発されたこと自体も、ご自身の強い思いがあったからこそではないか、と思ったのですが。
吉田 これが答えになっているかはわかりませんが、今、私はセミナーを全国で行っていて、BRM療法の技術だけではなく、その根拠となる「解剖学」も教えています。この療法は、どこからどこまでもが私のオリジナルです。いつか私がこの世を去れば、他の誰かがBRMを教えてくれるかもしれない。しかしそれは「脚色された言葉」であって、「その人自身のもの」ではありません。
私は解剖学に基づいて自分でBRM療法を作り出したステップをセミナーでそのままお伝えしているのは、生徒の皆さんが各自で、自分なりのものを組み立てられるようにと願っているからです。それぞれの治療家が、苦しんでいる人を救ってほしいと、そう思っています。
セミナーのテキスト。「骨盤編」「下肢編」「上肢肩甲骨編」「頭蓋編」「頚部前面と内臓編」の5つがある。
各講座ごとに受講可能。吉田先生ならではの豊富な知識を求めてさまざまな治療家が受講。
ベーシック1〜5 各5万円(税込・2日間)、アドバンス2万5,000円(税込・1日間)
――先生が身体のしくみを基礎から教えることで、また「次の芽」が芽生えるかもしれませんね。
吉田 ええ。治療家には、いろんな種類の技術があります。皆それぞれが正しいことをやっている。私は他の方法を、否定も批判もするつもりはありません。全て正しい。そして、私もやっていることもそれなりに正しいことであると信じています。
私の行っているBRM療法で、必ず少しは改善できる余地がある、可能性があるということを、困っている方にはぜひ体験いただきたいなと。そう思います。
――今、BRM療法は、医師にも関心を持つ方が増え、吉田先生が学会に招待される他、脳神経外科クリニックとの連携も始まっています。民間療法を超えた活躍がさらに期待されています。
“明珠在掌”
長く修行していた僧が、あるときに「悟りは自分の手の中にある」と気づいたという、禅の教え。治療家とは “たなごころ”。手一つで、改善させることができるという意味として、吉田先生の座右の銘となっています。