癒しの選び方(2−1) BRM療法 骨の歪みは、あらゆる不調の根本原因になり得ます

「癒しの選び方」の第2回目は、手技療法の一つである「BRM療法」を紹介します。
BRM療法(Bone Rhythm Moment療法)とは、整体師の吉田邦夫先生が創案した、骨に優しく触れて、骨が動くリズムを感じ取りながら、骨の歪みを改善するアプローチです。肩凝りや腰痛の他、自閉症やパニック障害などの重度のものまでを対象範囲とし、吉田先生の治療院は常に4ヶ月待ちです。なぜ触れるだけでそのようなことが可能となるのか? 吉田先生に、BRM療法創始の経緯や、理論について、お話しいただきました。
吉田邦夫(よしだ・くにお)
日本BRM療法協会代表。ひまわり健整院院長。
著書に『手を添えるだけで、骨のゆがみがなおる!』(PHP刊)など。
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「骨のリズム」を感じたら、“治療不可能”といわれた激しい痛みが消えていた
――本日はよろしくお願いいたします。今回お話いただくBRM療法は、先生自身の不調から生み出されたものだそうですね。
吉田 BRM療法を創案したのは、私自身がケガをしてそれが治らなかったことから始まります。1983年の冬、40歳のときに雪道で転び、頭と肩を強打したのです。医者に行くと「単なる打撲だから、1週間もすれば治りますよ」と言われた。ところがそんな軽い症状ではなくて、実際は胸鎖関節を損傷していました。
――胸鎖関節というと、鎖骨の下あたりですね。
吉田 ええ。すると「その部位は手術のしようがない。だから安静にしているしかありません」と医者に告げられてしまいました。しばらくは言われたとおり、安静にしていたのですが、ズキズキと激しい痛みが出てきました。
仕方なく鎮痛剤を使って、痛みをごまかしごまかして生活をしてきたのですが、ある日、限界がきました。鎮痛剤でアナフィラキシーを起こして、鎮痛剤さえ使えない状態になってしまったのです。「私たちの治療では処置できることがないので、後はあなたのほうで痛みとうまく付き合って下さい」と医者から突き放され、自分で身体を治すしかなくなったわけです。
――それはつらいご経験でしたね。つまり、必要に迫られて、BRM療法をつくられたと。
吉田 はい。当時は、他に何か治す方法があるだろうと思い、カイロプラクティックなどさまざまな治療法を片っ端から受けたのですが、一向に治りませんでした。何年経っても良くならず、夜も眠れなくて、ときには気を失うほどの痛みを感じて。それで、「もう自分の人生を諦めるしかない」というところまで追い詰められていきました。しかし結論を出す前に、「痛みは起こる原因が必ずどこかにあるはずだ。もう自分で調べるしかない」と考えました。そして専門学校に入学し、徹底的に基礎医学や解剖学の勉強を始めることにしたのです。
――すごい決断ですね。
吉田 そのとき、痛みもありましたけれど、「治らない」と医者から告げられた絶望感のほうが辛かったですね。何か大きな病気や怪我をしたら、誰でも最後は医者を頼ります。その医者から「もう治らない」と言われてしまえば、もう絶望感しか残りません。その絶望感が、自分を最も苦しめているのだと感じました。仕方がない。自分で勉強して治そう、と決意したわけです。
卒業後は東京から引っ越して、静岡で開業しました。24年前の1997年です。
しかしそれからも相変わらず私の痛みは消えないままでした。解剖学の勉強を膨大にしてもさっぱり原因がわからない。今度こそ、「もうだめだ」と思い始めた頃、ある出来事が起こりました。ある夜の入浴中に、身体の不思議な動きを感知したのです。
――身体の不思議な動き、ですか。
吉田 夜に、浴槽のヘリに後頭部を乗せてぼーっと湯に浸かっていました。そうしたらふと、頭を乗せたその部分、後頭骨の部分が「振動するように動いている」のに気づいたのです。始めは身体の動きではなくて、お湯がちゃぷちゃぷ動いている感覚かと思いました。しかし、静かに湯に浸かっていたので、そうではない。試しに息を止めてじっとしていても、何か微細な動きが感じられる。「やっぱりこれは身体の動きなんだ」と思って我にかえると、転んで以来ずっと続いていた激痛が、すっかり消えていました。風呂の中でパアッと目を開けて、「何だこれは?!」と。衝撃でした。
――すごい体験をされたのですね。
吉田 そのときのインパクトは強烈でした。今まで常に痛みを感じてずっと頭痛薬を飲んでいる状態だったのに、その痛みが、嘘みたいに消えた。それが、BRM療法を創り出すきっかけとなりました。
(開業して24年。治療院は車で10分ほどの場所にある)
骨の歪みが、神経や筋肉に影響を及ぼし、痛みや他の不調を生む
――そもそも痛みが生まれるメカニズムとは、どんなものなのでしょう?
吉田 まず痛みは、神経が圧迫されることで生じます。神経には中枢神経と末梢神経があり、この2つは頭蓋骨と脊柱管の骨の中に収納されていて、そこから末梢神経が全身へと伸びていきます。中枢神経である「脳」と「脊髄」はいわばコンピュータの本体のようなもので、末梢神経は端末です。
この末梢神経の情報が身体の末端まで行くときの第1関門が「骨」です。すべての神経は、収納された骨のどこかから出ています。ですので、神経の格納器である骨の中に歪みがあると神経が圧迫されます。痛みは、「神経が圧迫された」という危険信号として発せられます。
そして骨が歪んでいると、筋肉もねじられた状態になり、そこを通っている神経はさらに刺激を受けます。それによってよく起こる症状は、しびれや麻痺ですね。痛みは、神経そのものがダメージを受けているのではなく、神経が通過する領域に障害があるために起こる。つまり、骨の歪みを治せば、障害を改善できる。これがBRM療法の基本原則です。
(骨は大事!)
――痛みの根本的な解消には、骨にアプローチすることが必要、という考え方なのですね。たとえば痛みをとるために、筋肉の凝りを取る整体やマッサージがたくさんあると思います。そういったものは効果がないのでしょうか?
吉田 そんなことはありません。拘縮した筋肉が神経を圧迫したりもするので、筋肉をほぐすマッサージなどは効果的です。ただ、筋肉の拘縮が起こるのも、それを支える骨の両端が正常な状態ではないことが理由です。ですから、痛みの原因を根本的に取り去るためには、やはり骨の歪みの解消が必要なのです。
――筋肉を支持しているのは骨だから、やはりそこからアプローチすると。
吉田 そうです。そこがまず原点です。
やさしいタッチによって、骨を本来の位置へと導いていく
――ちなみに、先生が入浴中に痛みが消えたのは何故なのでしょうか。
吉田 このメカニズムは、オステオパシーの創始者、アンドリュー・テイラー・スティルのブランコ療法(後に、クラニオセイクラルセラピー(頭蓋仙骨療法の原点となる)に通じるものです。
まず、頭部の骨は22個の骨がつながって構成され、それらは頭部を取り囲む脳脊髄液の流れによって、膨張と収縮をしながら微細に動いています。これをBRM療法では、「骨動リズム」と呼びます。骨に歪みが生じると、神経が圧迫されるだけでなく、生来的に起こっている骨のリズムも抑制されてしまいます。私が浴槽で感じた身体の動きは、この骨動リズムでした。
――はい。
吉田 私は後頭骨を浴槽の上に乗せて、湯船に浸かっていた。このとき、「頭を乗せるというかすかな刺激」によって、頭部の骨と骨の縫合部がわずかにゆるんだのです。結果、頭部を取り囲む結合組織の緊張もゆるみ、転倒によって起こった骨の歪みが自然と解消され、あるべき位置に戻っていった。骨の位置が正常に戻ると、歪みによって抑制されていた骨のリズムが蘇ります。私はその骨のリズムを感知したのです。
――なるほど。
吉田 ええ。BRM療法は、歪んだ骨の部分にやさしく手を添えることで、骨動リズムをとらえ、同時に結合組織の緊張をほぐしていきます。その緊張がゆるむのが感知できたら、さらに添えた手で骨が正しい位置に戻るように方向性を出す。骨の歪みが解消されれば、周りの他の組織も本来の場所に戻ります。こうして身体を整えていきます。
――骨の歪みは、筋肉だけでなく、結合組織にも影響するという。
吉田 そうです。骨の歪みは、全身に張り巡らされた結合組織を通して、全身に影響を与えます。
実は、私が転倒して身体を強打したあのとき、とても不思議に思ったことがあったのです。左の頭と肩を地面に打ち付けたにもかかわらず、その瞬間、対角線上に位置する右の脇腹が強烈に差し込むみたいに痛くなりました。立ち上がろうとしたときも、強打した左側ではなく、右側のほうが痛くて動けなかったのをよく覚えています。結論を言ってしまえば、結合組織の繊維の方向性により、衝撃が対角線上に分散されたのです。身体を守るしくみですね。
あるとき、そのことをぱっとひらめいて、「解剖学アトラス」の本を開いたら、やはりそういう風に結合組織がくっついていました。その後、千葉大理学部の解剖見学に参加して、結合繊維に実際に触れて、それを自分の目と手で確認しました。1つひとつ自分で痛みの原因と疑問点を挙げて、それらを積み重ねていって、この療法を創りました。
(やさしいタッチで触れるので、施術されていると眠くなることも)
――世の中にはさまざまな民間療法がありますが、BRM療法は、吉田さんご自身の体験と膨大な知識から裏付けられたメソッドということですね。続いて、クライアントさんへの施術効果もお聞きしたいと思います。(2につづきます)