癒しの選び方(1−3) アロマテラピー(芳香療法) アロマテラピーを行ってはいけない人は? 危険性は? そして自分に合う精油を選ぶには。

アロマが役立つものだからこそ、禁忌を知る
――前回、前々回に続きまして、お話を伺いたいと思います。アロマテラピーが向いてない人はいるのでしょうか? 体質的に向かない方とか。
川口三枝子(以下、川口) 向かないと思った人は、これまで1人だけいました。化学物質過敏症の方です。精油は化学物質ではないけれど、その方が「アロマ=化学物質のような刺激の強いもの」というイメージを持っていて、芳香浴をしているお部屋に入って来れなかったんです。
――アロマの香りに対して、身体が嫌がってる感じだったんですか?
川口 ううん。頭で嫌だと拒否していたと思います。それから、柔軟剤の強い香りがダメになって以降、アロマのちょっとした香りにも拒否反応を示したり、植物油のアレルギーでトリートメントを受けられない方もいましたね。そういう人がアロマテラピーをムリにする必要はないと思います。
――その他にも、使えない人はいますか?
川口 はい。妊娠中や特定の疾患の方には使えない精油など、禁忌はたくさんあります。前回も話しましたが、特定の情報だけを鵜呑みにして、「これさえ食べれば大丈夫」「これさえやれば健康になる」と思いがちな方は、使用法を間違えるかもしれません。
たとえば、スピリチュアルが悪いわけじゃないんだけど、「アロマで神秘体験ができる」みたいなことを言う人とか。精油の安全性といった基礎的な知識を知らずに、精油を原液や濃い濃度で使っている方は増えていると感じます。
――危険ですね。
川口 本当に危ないです。精油を使うのが自分だけなら良いけれど、人にすすめたり、人にしてあげるときは、最低限の勉強が絶対に必要。そして、「人が健康になる土台」が分かっていないとダメで。食事を3食とって運動してちゃんと眠るのが健康の3大柱なのに、それをすっとばして、「アロマを使えば何とかなる」はムリな話ですから。
(アロマ以前に、ちゃんと眠ろう!)
――川口さんは講師としてアロマテラピーをすすめる立場ですが、「アロマでできないこともある」と考えていらっしゃるんですね。
川口 専門的に学んだプロならそう言うはずです。だからサロンで食事や運動のアドバイスをすることが必要なわけで。
――そうですよね。
川口 もう1つ、危険な例として、ママ友同士の飲み会で、お酒にレモンの精油をバーっと入れる人がいるという話なども聞きます。入れる方は、「ここのメーカーの精油は、ピュアでオーガニックだから心配ない」とおっしゃるそうですが、それって論理が破綻していて。オーガニックだろうと何だろうと、「精油は植物の成分を濃縮したもの」。内臓には刺激が強すぎるので、基本的に内服は厳禁です。
「精油に効果がある」ということは、「自分の身体にとても作用する」という意味です。先日来日した、アロマテラピーの第一人者であるロバート・ティスランドさんも、「精油を内服して、内臓で何かが起こっていても表面には現れない。それはリスクだ」とおっしゃっていました。アレルギー反応が起これば身体に悪いって分かるけど、「肝臓がやられた」なんて、すぐには分からないじゃないですか。
ずっと使い続けるべきではありません。3カ月やったら1カ月休む。7日のうち、2日休む。休肝日みたいに。
アロマはどこで買うべきか。どの精油メーカーが良いのか
――実際、精油の原液使用や飲用がNGであることや、それぞれの精油の禁忌は、素人の方はまず知らないと思います。バラエティショップで精油を気軽に買える良さはあっても、学ばずに使ってしまえる怖さはありますね。
川口 ええ。てんかんの娘さんに「ペパーミントがスースーするので毎日塗ってあげている」というお母さんがいました。ペパーミントは、神経毒の作用を持つケトン成分を含むので、てんかんの方には禁忌です。そのお母さんは娘さんのことを思い、「アロマは自然なものだから大丈夫」と考えたのでしょう。ところが、精油を売った方は何も言わなかったようで、「売るのに、そんな大事なことも伝えないのか」とびっくりしました。
なので私は、アロマテラピーの初心者向け講座を行うときは、「精油を買う時は、店員さんが売ってるお店で買ってください。かつ、『私の体調はナントカカントカなんだけど、使えない精油はどれですか?』と訊いて、答えられないお店では買わないでください」と言ってます。
――そういうお店、あんまりなさそうです…。
川口 「生活の木」や「カリス成城」「ニールズヤード レメディーズ」のような専門店なら、ある程度教えてくれると思いますよ。専門的に理解している人からちょっとしたアドバイスがもらえるのは、「安い」ではないメリットがあると思います。インターネットにアロマの説明がたくさん載っていても、逆に「どれが正しいの?」って訳分かんなくなってる人も多いので。ネットの情報って、そこに正しいことが書いてあるかどうか、昔より分からなくないですか? 私はそう思います。
――私も分からないです(苦笑)。
川口 ネットの情報が全て間違っているとは思わないんですけど、「どんな人が、どんな立場で、どういう考えによってこのアロマのレシピになったか」は、それぞれ違う。「むくみ対策レシピ」が10個載っていたとしても、書いた人のレベル如何で、全然違うレシピになっていて。身体のしくみと、精油の成分をどれほど理解しているかで、レベルは全然違ってくる。だからアロマテラピーをちゃんとやりたい人は、スクールに行って自分で学ぶか、信頼できる人を探すか、という2択になるんでしょうね。
――それから、精油の安全性についてちょっと教えてください。どういう精油が安全なんでしょう? おすすめのメーカーはありますか?
川口 正直、何を基準して良いか、業界的にも分からなくなっています。「100% ピュア」という基準そのものが協会やメーカーで違うし、精油に何かを「添加する・しない」も違う。
ただ私自身は、抽出された成分に何かの成分を添加したり、または一部を除去するのは好きではないです。精油に含まれるごく微量の成分が効果を発揮したり、副作用を抑制したりもするので、そのバランスを崩すのが良いことなのか。
たとえば柑橘系精油の中に、柑橘独自のフロクマリン成分を除去した「フロクマリンフリー(FCF)」の精油があります。フロクマリンには、「光感作作用(肌につけて日光に当たると、アレルギー反応が出る)」があるので、FCFを使えば、柑橘精油を日中も使えるメリットがある。だけど、フロクマリン成分には、精油の酸化を防ぐ効果もあったりする。「柑橘精油を夜に使えばいいんじゃない?」って思うわけです。
――精油の成分調整は、大きな枠でとらえれば、食品の遺伝子操作や生態系の崩壊とも共通するテーマかもしれないですね。精油の中には、まだ発見されていない成分がたくさんあると聞きますし。
川口 あります、あります。精油の成分分析表を見ると、成分が100%表示されていなかったりします。ラベンダーなら95%くらいの表示で、残りの5%は検査しても分かっていない。その明らかになっていない、精油のごく微量な成分が、身体に効いている可能性はゼロではないんですよ。研究途上なだけで。
(豊かな生態系が生命を存続させているように、
豊かで有機的な精油の成分が、人体に健やかさをもたらす)
――自然から生まれた精油ならでは、ですね。
川口 というわけで、今の時代は1人ひとりがメーカーをきちんと見て選んでいくしかない。食品と同じです。成分操作の有無は、極論を言えば分からないので、「大手メーカーが安心」と思うなら、その人にとってはそれが良いんだろうし。「こだわりを持つ個人生産者が良い」とか「このメーカーの香りが好き」という基準で選んでも良いし。
ただ、日本産の精油は、生産者が国内にいるので比較的、品質が分かりやすいんじゃないかな。現地見学がしやすいので、どんな信念で精油を作っているなどを聞けることもあります。
精油は多様に働く。まずは自分の家庭に5本あればいい
――私自身、何年も前からアロマテラピーを行っています。初心者の方がアロマテラピーを始める場合、精油の種類は少なくて良いと思うのですが。いかがですか?
川口 ええ。私はスクールの生徒さんに対して、「コースが修了するまでに、自分の家庭の5本が決まればいいよね」くらいに思ってます。独身女性の家で使う精油と、お子さんが3人ぐらいいる家庭で必要な精油って違うじゃないですか。
アロマテラピーをちゃんと学んで、精油成分の多機能性を知ると、たくさんのボトルの中から最適な1本を取捨選択できるようになります。
――アロマテラピーを学ばれたい方は、ぜひ川口さんのところに行っていただきたいです。今後のご活動はいかがでしょうか。
川口 LINE @で「体質別に精油を選べるサービス」を始めているので、ぜひ試してみてください。それから、私のスクールの卒業生が活動するサロンを開く予定です。
(川口さんのアロマスクールに飾ってあるアロマテラピーのディプロマ。
精油の使い方から、アロマトリートメントまで学ぶことができる)
――最後に、川口さんの人生は、どう変わりましたか? アロマテラピーと出会って。
川口 生きやすくなったのかな、ひと言でいうと。体調管理とかメンタル管理ができていないときも多いけど、それを自分で何とかできる「アロマテラピー」というツールが手に入った。自分で自分をコントロールできるようになって、すごく生きやすくなりました。そうすると自己肯定感も上がりますし。
――アロマを使ったら生理不順が改善したとかって、考えてみたら、けっこうすごいですよね。
川口 精油は、私たちの知らないところで働いています。そして勝手に整えてくれる。心からすごいと思ってます。
[おまけ 川口家で使う5本の精油]
- 家族構成…夫50歳 妻48歳
- 悩み
・不眠になりやすい(夫)(妻)
・頭痛になりやすい(夫は緊張型頭痛、妻は偏頭痛)
・肩凝り(夫)
・更年期(妻)
・むくみ(夫)
・薬の解毒(夫)
- 選んだ5本の精油
・ラベンダーアングスティフォリア(真性ラベンダー)…不眠(夫、妻)、肩凝り(夫)、緊張型頭痛(夫)、偏頭痛(妻)、夫が個人的に好きな香り
・マンダリン…不眠(夫、妻)、偏頭痛(妻)、妻が個人的に好きな香り
・ローズマリー・ベルベノン…更年期(妻)
・サイプレス…更年期(妻)、むくみ(夫)
・レモン…むくみ(夫)、薬の解毒(夫)、ダイエット(妻)
香りの好みを考量しながら、夫婦の不調に役立つ精油をセレクトした。精油の成分を知り、その働きの多様さを知ると、1つの精油が何倍にも役立つ。たくさんの種類を揃えなくても賄えるようになる。
川口三枝子(かわぐち・みえこ) ナード・ジャパン認定アロマトレーナー。https://aromatime.jp/